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活動報告

カルチュラル・タイフーン2019参加レポート

カルチュラル・タイフーン2019参加レポート

男たちはどうなった?――コミュ力、イクメン、新自由主義

2019 年6月1日~2日にかけて、慶應義塾大学三田キャンパスでカルチュラル・タイフーン2019が開催されました。2003年の第1回から数えて17回目となります。
今大会では、河野真太郎(専修大学)氏がオーガナイザーを務める「男たちはどうなった?――コミュ力、イクメン、新自由主義」に、当会代表の中垣恒太郎がパネリストとして参加しました。

男たちはどうなった?女はすべてを手に入れたのか?

このパネルのパネリストは全員男性。
実は、姉妹編のパネル「女はすべてを手に入れたのか?―ポストフェミニズム、新たな労働、消費者民主主義」と対になる構成になっており、こちらのパネリストは全員女性。
ポストフェミニズム状況における男性性の行方を、障害の表象の問題と関連させながら考える企画です。
このパネルは、急遽広い教室へと会場変更したにも関わらず、立ち見まで出るという大盛況。
常に知的好奇心を刺激しつづける90分の学究ライブ。本レポートではこの会場の熱気を伝えることは潔くあきらめ、あくまでエッセンス抽出に努めました。非研究者の簡易レポートですので、誤解がある場合もございます。誤りがある場合は、こちらよりメッセージをいただければ幸いです。
とにかく、その中身の濃さ、熱量を感じるには、カルチュラルタイフーンの現場に足を運んでいただくしかないでしょう。

男たちはどうなった? コミュ力、イクメン、新自由主義

英文学者である河野真太郎氏は、映画「恋愛小説家」(主演:ジャック・ニコルソン 監督: ジェームズ・L・ブルックス 1997年 アメリカ)を題材に、現在の「男性性」のあり方を浮き彫りにする試み。
いわゆる『コミュ障』である主人公がそれを克服し、女性とコミュニケーションをとれるようになる結末は『コミュニケーションをしないかつての男性性が今は通用しない』ことを表象しているとか・・・ああ、なんだか耳が痛いのはなぜだろう。

イクメンは資本主義の侍従か?

男性性の専門家である川口遼(首都大学東京子ども・若者貧困研究センター)氏は、イクメンは資本主義の侍従か?という刺激的なタイトルとともに、1980年から1990年代に展開する男性の育児をめぐる社会運動と社会政策のレトリックについて発表。
出生率と経済成長の二つをあげるためのイクメンという政府の狙いを、当然無理筋と断じつつ、「イクメンの歴史」として紐解き、国家政策と仕事に結び付けられた男性性の組み替えを明らかに。
果たして、イクボスはどれだけ存在するのでしょうか?

男たちが語ることの困難? ――「生存学」から見るマンガで描く多様性

比較メディア文化研究を専門とする中垣恒太郎の発表テーマは医療マンガ。
医療マンガとはそもそも何か?という問いに対し、医療マンガの定義として、「生存学」が示す「障・老・病・異」を紐づけることを提案。また、海外でのグラフィック・メディスンの動向を交えながら、高度に発展する医療と医療従事者の職能や家族といった多様性を描く、医療マンガの世界を紹介しました。
闘病エッセイマンガジャンルにおいて男性作家が少ないことを示し、男たちが「弱み」を語ることの困難という仮説をもとに、書き手のジェンダー、受け手のジェンダーに関する問題提起を行いました。

比較メディア文化研究を専門とする中垣恒太郎の発表テーマは医療マンガ。

「文化台風」という名の膨大な熱量

「魂なき専門人」のコミュニティに堕し疲弊しまくる既存の学会アカデミズム制度への反逆

ー大会実行委員長 岡原正幸(慶應義塾大学) Cultural Typhoon2019 大会パンフレット 序文より

この言葉をまさに地で行く、研究者たちの熱量がそこにありました。
セックスワークから日米関係まで、文化/社会/政治のオルタナティブ、文字通り形式にとらわれないさまざまな「文化台風」という名の『学術研究発表』の数々。
この台風が通り過ぎた後の爪痕は、研究者の皆様の熱として蓄えられ、また来年の上昇気流を生むことでしょう。