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活動報告

2017年度「グラフィック・メディスン学会」レポート

2017年度「グラフィック・メディスン学会」レポート

8回目を迎える2017年度グラフィック・メディスン学会

グラフィック・メディスン学会提唱者であるイアン・ウィリアムズ氏

グラフィック・メディスン学会提唱者であるイアン・ウィリアムズ氏

中垣です。
2017年6月、「グラフィック・メディスン学会」(Comics and Medicine)で発表してきました。
「グラフィック・メディスン学会」は医療分野とコミックス研究とを繋ぐ目的で、2010年にロンドンでスタート。8回目となる2017年度年次大会は、米国シアトル公立図書館で開催されました。

2017年度年次大会の基調講演は、コミックス/文学研究者であるヒラリー・シュート(ノースウェスタン)教授や、アフリカ系アメリカ人によるLGBTQ(性的マイノリティ表象)を打ち出したコミックス・アーティストの先駆的存在に位置づけられるルパート・キナード氏らがつとめられました。
このように、学術研究を基本としながらも、実作者による講演を交えているのもコミックスの専門学会ならではのことです。
学会の提唱者であるイアン・ウィリアムズ氏も、現在、進行中であるグラフィック・ノベル作品『レディ・ドクター』の構想を披露していました。

自分で医療コミックスを描く参加型ワークショップが人気

参加型ワークショップが人気

参加型ワークショップが人気

他にも、「グラフィック・メディスン」に位置づけられる医療コミックスの「マーケット・プレイス」や原画オークションが開催され、アーティストと対話できる場が多く設けられているのも、本学会の大きな特色となっています。
研究発表という形ではなく、フロアを交えた対話参加型セッションも多く、「子どもに対する医療教育のツールとしてのコミックスの役割」や、コミックス・アーティストを交えたトーク・セッションなども盛り込まれています。

興味深い試みとして、コミックス・アーティストを招聘してのワークショップ「医療コミックスを描く」が展開されており、満員状態。
私は画才がまったくないので参加しませんでしたが、参加者が医療にまつわる自身の体験をもとにしたコミックス(マンガ)をその場で1頁描き、それぞれが話をしあう試みが印象的でした。

コミックス・アーティストを招聘してのワークショップ「医療コミックスを描く」が展開

コミックス・アーティストを招聘してのワークショップ「医療コミックスを描く」が展開

 

この場合の医療にまつわる体験とは、患者であれ、医療従事者であれ、どのような立場でもよく、実際に参加した人物から様子を聞いてみたところ、それぞれの視点からの物語がヴィジュアル表現と組み合わされることでより一層興味深いものとなることを実感できたとのことでした。
しかも、コミックス・アーティストの論評/助言ももらえる貴重な機会となるもので、毎回このワークショップを楽しみに学会に参加している者も多いという人気企画です。JGMAでも、同じような企画を日本でできないか検討しています。

 

 

 

精神的な問題/病のテーマが目立つ

2017年大会の全体的な傾向としては、精神的な問題/病をどのようにヴィジュアル表現を通して扱うことができるかをめぐる関心の高さが目立ったように思います。

精神的な問題/病のテーマが目立つ

精神的な問題/病のテーマが目立つ

コミックスを描くことによるセラピー効果を探る「アート・セラピー」という概念、「戦争帰還兵のトラウマをコミックスでどのように表現することができるか」に特化したセッションなどもありました。
さて、私自身の研究発表は、闘病コミック・エッセイ『元気になるシカ――アラフォーひとり暮らし告知されました』(藤河るり、2016)を軸に、日本の医療マンガの多様性を示し、その技法と社会的機能について展望を示すもの。
グラフィックメディスン学会のウェブサイトでは『ブラックジャック』、『医龍』、『最上の命医』などいくつかの日本の医療マンガも紹介されてはいるものの、現在のところ、グラフィック・メディスン学会は英語圏中心です。
しかしながら、表現技法の発達と多様性からも日本の医療マンガの進展は目覚ましく、比較考察することでこの領域をさらに推進していくことができるものと見込まれます。